近年、我が国においても事業承継の場面でM&Aの手法を利用するケースが増えつつあります。また、相続対策として、後継者に自社株を贈与するケースもよく見られます。
この場合、我が国では、自社株の評価方法として、従来から次のような方式を採用してきました。
(1) 類似業種比準方式
「 「業種」及び「配当金額」「利益金額」「簿価純資産価額」の要素について似ている上場会社と比較して評価する方法です。
<計算式>
A×(b/B+c/C×3+d/D/5)×斟酌率×1株当たりの資本金等の額/50円
A:類似業種の株価
B:類似業種の1株当たりの配当金額
C:類似業種の1株当たりの年利益金額
D:類似業種の1株当たりの純資産価額(帳簿価額)
※A~Dは国税庁の公表する数値による。
b:評価会社の1株当たりの配当金額
c:評価会社の1株当たりの年利益金額
d:評価会社の1株当たりの純資産価額(帳簿価額)
斟酌率:小会社=0.5、中会社=0.6、大会社=0.7
※会社規模は「財産評価基本通達」(国税庁)に基づく。
(2)純資産価額方式
会社が解散または清算すると仮定して、その場合株主価値がいくらになるか計算する方法です。
<計算式>
(課税時期の相続税評価額-課税時期の負債総額)-(清算所得に対する法人税相当額)/発行済株数
(3) 配当還元方式
配当実績に基づいて評価する方法です。
<計算式>
1株当たりの年配当金額/10%×1株当たりの資本金額/50円
※1.年配当金は1株当たりの資本金の額を50円とした場合の金額とする
※2.年配当金額が2円50銭未満または無配当の場合は、2円50銭とする。
以上のうち、(1)と(2)は後継者を対象としていますが(3)は経営権の無い一般株主を対象としています。
また、経営陣によるMBOや上場会社の非公開化に伴う少数株主の締め出しに当たって不満な株主が裁判所に対し、株式買取請求権(会社法785条)や価格決定申立(会社法172条)を行使するケースが増えていますが、これについて、我が国裁判所は総じて市場価格を参照して決定する傾向が強く、この意味では、裁判所もまた、上記(1)類似業種比準方式を採用していると言えるのではないでしょうか。
株式価値の評価法Ⅱに続く